私淑(ししゅく)
突然ですが、問題です。「私淑」という言葉の正しい使い方は、次のうちどれでしょう?
A「野球のコーチに3年間私淑して、今日がその集大成を見せる時だ。」
B「私はずっとあの先生に私淑してきたが、とうとう別れる時だ。」
C「私の私淑するあこがれの作家は太宰治だ。」
答えは、続きの記事の中で明らかになります。この記事では私淑の正しい使い方を見ていきます。
私淑の意味とは
さて、私淑とはどういう意味でしょうか。読み方は「ししゅく」。これは「直接学ぶことはできないが、ひそかに慕い、学び教わる」という意味です。
つまり、故人や遠方に住んでおり、直接会うことのできない人ではあるが、その人の著作や作品、思想などに憧れを持ち、師として仰いでわが身を養うことを意味します。
直接ならば師匠と弟子の関係となり、「師事」という形になります。しかし、私淑はある意味「勝手に弟子入り」状態ということができます。
現在はインターネットが発達しているため、存命中であればなかなかこのようなことも起こりませんが、国をまたぐ場合にも私淑と言うことができます。
なので、冒頭の問題ではCの「故人となり、会うことのできない」パターンが私淑の正しい使い方と言えます。
私淑の由来
私淑の由来を見てみましょう。私淑は中国の儒学者、孟子の発言が由来になっています。
儒教の始祖は孔子ですが、孟子は孔子の孫のさらにのちの時代に生まれました。
孟子は孔子に直接教わりたかったのですが、彼を慕い、彼の教えを受けたものから教わりました。その結果、儒教では孔子に次いで重要な人物となりました。
「予私(ひそ)かに諸を人に淑(よ)くするなり」といった言葉から、私淑という言葉が生まれました。
私淑の文章・例文
例文1.20歳の時からモーツァルトに私淑している
例文2.私の私淑する教師は地球の反対側にいる
例文3.彼は名もなき芸術家に私淑しているらしい
例文4.私淑し続けた先生が存命だと知って、驚愕した
例文5.パスカルに私淑し続けた結果、彼の第一人者と言われるほどになった
例文でも見るように、「もう会うことのできない」のがポイントです。
- [adsmiddle_left]
- [adsmiddle_right]
私淑の会話例
-
この前借りたリンカーンの本を返すよ。とうとうネットショップで見つけたんだ。中古でものすごく高かったけど、すぐに落札したよ。
-
あら、そうだったの。あなたは本当にリンカーンのマニアね。
-
マニアではなく、私淑していると言ってもらいたいね。彼の言っている言葉を自分のものにしようと、昔からずっと彼の本を読みつくしてきたんだから。
-
ただのマニア、と呼ばれるのは不服なわけね。
今でいえば「マニア」の一言で片づけられてしまいますが、偉大な人に私淑してその人の持っているものを自分のものにするとき、孟子が大成したように、何か大きなことが達成できるかもしれません。
私淑の類義語
私淑の類義語について見てみましょう。類義語として挙げられるのは「手本」「模範」です。もちろん意味はあっているのですが、私淑の深い意味合いを表現するほどではありませんね。
私淑まとめ
ここまで私淑について見てきました。私淑は時間や空間、さらには人の思慕を感じさせる奥ゆかしく美しい表現ですね。